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産出

その2.GDPに含まれるもの、含まれないもの

産出の指標として政府が推計するGDP。大学の授業では、あれやこれやがGDPに入るのか、入らないのかを覚えさせられます。それが分かりにくい原因は、「含めたいもの・含めたくないもの」と「含められるもの・含められないもの」という2つの次元があることです。前者は、「生産活動の指標として役立つものにしたい」という、GDPの目的や理念に関わることです。一方、後者はデータを収集する際の技術的な制約に関わることです。こうしてGDPには、含めたくても含められないものや、含めたくないのに含んでしまうものが出てきます。


たとえば、犯罪組織が麻薬を生産して10万円儲けた場合、政府はそれを把握できないでしょうが、経済活動の指標たるGDPが麻薬を含まないのは別に構わないことです。他方、高校生がお小遣い稼ぎに、近所の子供たちを家庭教師するのがブームになったとしたらどうでしょうか。こちらも政府が把握できなければGDPに含められませんが、家庭教師は真っ当な経済活動ですから、本来GDPに含みたいところです。


農家が作った作物の一部を、市場で売らずに自分で食べたとしても、これは「自家消費」と言って、GDPに含みます。誰が食べようと、その年の生産活動であることに変わりはないからです。もちろん、人々が自宅の庭で育てたハーブは、農水省が把握していなければ、含めたくても含めようがありません。


また、サービスの自家消費は含めようがありません。ピアノの先生が自分の息子にピアノを教えたとして、それをGDPに含めるのは無理です。親が子供に教育するのは昔からあることですから、含める必要もないかもしれませんね。でも、ピアノの先生とダンスの先生がお互いの子供をタダで教えたとしたらどうでしょう。これは生産活動の指標たるGDPに含めたい気もしますが、おそらく含められないでしょう。


GDPが役立つデータとなるためには一貫性も大事です。一貫性の問題は、例えば「1日の勉強時間」の記録に「授業の時間」も含めるかや、「日々の運動量」に「通勤中の歩行」も含めるか、という話に似ています。データの目的にも依存しますが、一番よくないのは、途中でころころ変わることです。「GDPに何を含むか」も、一貫していないとデータとして役に立ちませんから、きちんとした国際基準が存在します。


今回のポイント:
GDPが何を含むべきかを議論するときは「含めたい・含めたくない」と「含められる・含められない」の2つの次元を考える必要がある。実際に何を含むかは国際基準に従う。


GDPにどんな生産活動が含まれるか、少しイメージはできましたか。次回はGDPという指標の限界についてお話しします。

>> マクロ経済学の基本用語シリーズ(7)産出その3.GDPの限界