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投資と金融投資
前回は「投資」という言葉について説明しましたが、投資に関しては経済学の中でも、マクロ経済学だけに当てはまる注意事項があります。それは、マクロ経済学が投資と呼ぶものに、株式や債券などの購入、すなわち「金融投資」は含まれないということです。あなたが企業や銀行、政府が発行する債券を購入したとしても、そのこと自体はマクロ経済学では投資にカウントしません。借り手がその100万円をパーっと飲み代に使ってしまったら、国全体にとっての投資になりませんよね。借り手がその100万円を新しい設備の導入や研究開発のために使ってはじめて投資とみなされるのです。
このことを直観的にイメージするため、ある夫婦を思い浮かべてください。妻がお小遣いで友達とお出かけするのを我慢して、夫に貸してあげたとします(図中A)。夫が翌月に間違いなく返すとするなら、これは妻にとって貯蓄です。今月お出かけを我慢する代わりに、来月ディズニーランドに行けます。夫がちょっと上乗せして返してくれるならば、投資とも言えるでしょう。
しかしこれが夫婦にとって貯蓄・投資になるとはかぎりません。それは夫が妻のお金をどう使うかによります。もし夫がこのお金で新しいゴルフバッグを買うのだとしたら、結局のところ消費です。しかしもし夫が、将来の仕事のために英語を習うのに使ったとしたら、これは(政府の統計上はともかく)マクロ経済学的には投資です。前回勉強した「投資」の意味を思い出してください。将来は英語が堪能になった夫の稼ぎで、夫婦そろってたくさん消費できるかもしれません。そこで次の図では、消費は上方に赤で、投資は下方に緑で表して区別しておきます。
それでは次に、この夫婦がお金を貯めて銀行に預けたと考えましょう(次の図中B)。銀行にお金を預けることは夫婦にとっては貯蓄であり、金利が良い時代であれば堅実な投資になります。
しかし、家計、企業、銀行を含めた民間部門全体での貯蓄・投資になるとはかぎりません。それは、銀行に預けられたお金がどう使われるかによります。もしこの夫婦が銀行に預けたお金を、別の家庭が借り入れてパーティーに使ってしまったら、民間部門全体では結局消費です。しかしもし、銀行が預かったお金を企業に融資して、企業が新しい設備の導入や研究開発に使ったら、これはマクロ経済学的にも投資です。将来的に企業の生産が増え、株主への配当、雇用や賃金、納税が増えると考えられます。次の図では、前者は消費として赤で、後者は投資として緑で加えておきます。
さて次に、民間銀行が政府の発行する国債を購入することによって、政府にお金を貸したとしましょう(次の図中C)。これは民間部門にとっての貯蓄・投資です。利子のおかげでお金が増えます。
しかし、このことが、政府も含めた国全体での貯蓄・投資になるとはかぎりません。それは、政府のお金の使い道によります。もし政府が国債発行によって民間から借り入れたお金を、3ヶ月以内に全国のスーパーで使える商品券にして市民に配ったら、これは国全体での貯蓄・投資になりません。もし政府が借り入れたお金で、教育を充実させるとか、震災で破壊されたインフラを整備するとかに使ったら、これはマクロ経済学的にも貯蓄・投資と言えるでしょう。将来の生産増につながるからです。これらの区別も図に付け加えます。
最後に、国内の家計や企業が、海外の株式や債券を購入すること(次の図中D)は、国全体でも貯蓄・投資です。それが世界全体で見ても貯蓄・投資になっているかは、借り手の使い道に依るのですが、一国の経済を扱うマクロ経済学ではそこまでは気にしません。
いかがでしたか。金融投資が、マクロ経済学的には即投資とみなせないことが分かってもらえたでしょうか。次回は今回の貯蓄と投資の話を、お金ではなくリソース(物やサービス)の観点から捉えたうえで、貯蓄と投資の表裏一体について説明したいと思います。
今日のポイント:
マクロ経済は一国全体を考えるので、誰かが別の誰かにお金を貸すだけでは投資にならない。結局、将来もっと稼いで消費するための活動(前回勉強した意味での投資)に当てられるかどうかが決め手になる。
>> マクロ経済学の基本用語シリーズ(3)総貯蓄