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消費と投資

「投資」という言葉を聞いて何を想像しますか。企業経営者であれば、新しい設備を導入することでしょうか。証券会社の人であれば、株式や債券を購入することを想像するかもしれません。でも経済学における「投資」は、それらを含む、さらに広い概念です。それは、「今消費するのを我慢して、その分を将来もっと消費するための活動に充てること」です。今日の目標は、この「投資」という言葉のイメージを作ることです。


無人島のロビンソン・クルーソーを思い浮かべてください。苦労して切り出してきた木材を、暖をとるための薪として使ってしまったら消費、獲物や魚を取るための罠やボートを作るのに当てたら投資です。ジャガイモを茹でて食べたら消費で、種芋として植えたら投資です。


「投資」という言葉が、経済学者たちによってどんな風に使われるか、その一例を『貧乏人の経済学』という本から紹介しましょう。この本は、ノーベル経済学賞受賞者の二人が、途上国の貧困を解決するためのヒントを、ユーモアたっぷりに紹介する名著です。以下はその中に出てくるエピソードの1つです。


世界各国の研究で、「子供のときにマラリアにかからないと、かかった場合に比べて、大人になってからの年収が50%多くなる」と分かっている。平均年収が590ドルの国ケニアでは、防虫処理をした蚊帳(かや)の値段はせいぜい14ドルで、効果は5年持続する。だから、マラリア予防のために蚊帳を買うことは、収益性が非常に高い「投資」である。


どうでしょう。こんなふうに、経済学では「投資」という言葉をかなり広い意味で使います。理論における区別は、消費は「今楽しむための買い物」で、投資は「将来もっと稼げるようにするための買い物」というくらいの曖昧なものです。ゲームをするために新しいパソコンを買ったり、趣味で英会話を習うのは、どちらかと言えば消費です。一方、仕事のために新しいパソコンを買ったり英語を習ったりするのであれば、経済学的には投資です。漫画を買うのは消費で、勉強のために経済学の教科書を買うのは投資。ビジネスマンなら新しいスーツも靴も投資でしょうか。

統計上の区別

消費と投資の区別は、経済学的には曖昧ですが、GDP統計上は、もう少し機械的に決まっています。家計が買うものは、家を建てることを除いて全て消費とみなします。あなたが勉強のために経済学の教科書を買おうが、何年も使うつもりでテーブルや椅子を買おうが、全部消費とみなすのです。一方、企業が何年も使うつもりで高い買い物をしたら投資です。カフェがお客さん用のテーブルや椅子を買い揃えるのもそうですね。経済学的な消費・投資と、GDP統計上の消費・投資の2種類あって紛らわしいのですが、今日のポイントとして、とりあえず大雑把に覚えてしまいましょう。


今日のポイント:
経済学的な区別は「現在のための買い物が消費」で、「将来稼げるようにするための買い物が投資」。GDP統計上の区別は、「家計の買い物が消費」で、「企業が複数年に渡って利用するためにする買い物が投資」。


さて、同じ経済学でも、マクロ経済学の投資とファイナンス理論の投資とでは、意味するものが違います。次回はその違いを説明します。

>> マクロ経済学の基本用語シリーズ(2)投資と金融投資



本文で出てきた本

ノーベル経済学賞受賞者の二人が、途上国の
貧困を解決するための最先端の研究の数々を、
ユーモアたっぷりに紹介します。