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グリコ・パイナツプル・チヨコレート
ジャンケンに慣れていない小さな子は、知らず知らずのうちにグーばかり出すことがあります。でも何度もジャンケンをやっているうちに、だんだんと学んでいきます。そして最後はグー、チョキ、パーを等確率、つまりちょうど3分の1ずつの確率で出すようになります。グーを出す確率が高い子は、相手につけこまれてしまいますからね。ゲーム理論による予測も「慣れればみんな、グー・チョキ・パーを3分の1ずつの確率で出すようになる」です。
では「グリコ、パイナツプル、チヨコレート」の遊びはどうでしょうか。グーで勝つと「グ・リ・コ」と3歩進め、チョキで勝つと「チ・ヨ・コ・レ・ー・ト」と6歩進めて、パーで勝っても「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル」と6歩進める、という遊びです。
慣れていない子は普通のジャンケンと同じようにグー、チョキ、パーを等確率で出してしまうかもしれません。でも、来る日も来る日もこの遊びをやり続けている子供たちは、だんだん洗練されていきます。
この遊びでは、勝った時の得点と負けた時の失点が、グー、チョキ、パーによって違います。グーは勝っても「グ・リ・コ」で3得点しか得られず、負けたら負けたで相手に6点取られる(相手はパーで勝つ)からです。反対にチョキはいいですね。勝てば6得点、グーに負けても3失点だけで済みます。もし相手の子がグー・チョキ・パーを3分の1ずつ出すのであれば、自分はグーは絶対出さず、チョキばかり出すのが得策だと、賢い子供であるあなたは考えます。
でも、もしあなたがチョキばかり出していたら、さすがに相手の子もそれに気づくでしょう。そして、チョキばかり出すあなたに、グーばかり出して対抗することでしょう。結局、洗練された子たちがこのゲームをやると、グー・チョキ・パー全て使われるのです。しかし、確率は3分の1ずつではありません。
割合は4:4:2
ゲーム理論は、この遊びに慣れきった子供たちは、グーを40%、チョキも40%、パーは20%の確率で出すだろうと予想します。つまり、パーが出る頻度は他の2つの半分しかありません。そう聞いて「そりゃそうだ」と思う人は少数派だと思いますので、そのわけを説明します。
まず、もし相手の子がグー・チョキ・パーを等確率で出すのであれば、こちらは「チョキが一番得で、次に得なのがパー、一番旨味が少ないのがグー」ということは分かってもらえたでしょうか。
グーは勝てば3得点、負ければ6失点
チョキは勝てば6得点、負けても3失点
パーは勝てば6得点、負ければ6失点
だからです。
でもあなたは、一番得なはずのチョキばかり出すということはなく、旨味が少ないはずのグーも使います。なぜでしょうか。それは相手がパーを20%の頻度でしか出してこないからです。相手のパーの頻度が少ないので、こちらはチョキを出すことの旨味が減る一方、グーを出すことの脅威が減って、結局あなたにとって、グーもチョキもパーも旨味が同じくらいになるのです。
相手の子もまた、お得なはずのチョキだけなく、損なはずのグーを混ぜてきます。それはあなたもまたパーを20%の頻度でしか使わないせいです。あなたがパーをあまり使わないせいで、相手の子にとってもグー・チョキ・パーの旨味は変わらないのです。こうしてこの遊びに慣れきった子供たちは、お互い相変わらずグー・チョキ・パー全て使うけれども、グーやチョキの半分の頻度でしかパーは使わない、という状態に落ち着きます。
ジャンケンと「グリコ・パイナツプル・チヨコレート」。これらは、基本4ゲームの1つ、「マッチング・ペニー」の仲間たちです。そこで次回はこの「マッチング・ペニー」について、もう少し広く説明します。
>> マッチング・ペニー(2)社会の中のイタチごっこ