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長期的関係
「囚人のジレンマ」や「ベルトラン競争」で協調を達成するための3つ目の方法は、「ゲームをちょくちょく繰り返す関係になる」ことです。ゲーム理論ではこれを「長期的関係」と言います。すき焼きパーティーが今晩限りのものだとしたら、アスリートたちは肉や野菜をできるだけ早く取ろうとするでしょう。でも、もしこれが、毎週行われるイベントであれば、協調を保つのは容易になります。
「一度でも誰かが勝手なことをしたら、それからは毎週、肉の争奪戦だ!」という脅しが使えるからです。
共同体における「経済制裁」や「村八分」など、ゲームの外で違反者に制裁を課す方法もありますが、これはしばしば現実的な解決策ではありません。「お互い残業はしない」という約束に違反した同僚がいたからといって、いちいちその同僚と喧嘩していられませんよね。
この点、「長期的関係」は現実的な協調達成法です。長期的関係では、抜けがけしたプレーヤーには、抜けがけをもって報います。残業をなくすためには、「誰かが残業したら、それから3ヶ月間は俺も残業する。泥沼の残業競争だ!」という脅しが可能です。国際貿易であれば、「どこか一国が保護主義的な政策をとったら、他の国も追随して、貿易戦争突入だ!」という脅しが可能です。もちろん、デメリットもあります。長期的関係における制裁は、制裁を受けている者だけでなく、制裁を課している人たちにとっても痛手になる点です。
「罰則期間」
隣国同士がお互いの便益を尊重し合うのは、お互いを大事に思うからだけではありません。自分の国が勝手なことをすると、他の国も同じことをして、結局自国も痛い目に遭うと知っているからでもあります。それでもまれに、誰かが協調を乱してしまうことがあります。ゲーム理論の長期的関係論によれば、どこか一国が自国中心的になると、望むか望まぬかに関わらず、その他の全ての国も自国中心的になる「罰則期間」に突入します。つまり、結局どの国も損をする、というのが何年か続くのです。そして何年か経つと、やっぱりこれはやってられないね、となって協調路線に戻ります。
これは、少数の企業が競争する寡占市場においても同じです。ある企業が大幅な値下げなどの攻めに打って出れば、その他全ての企業がこれに追随する「罰則期間」が始まります。通常はこれが脅しとなって、アグレッシブな動きは牽制されるのです。過度な競争を避けるために、談合は必要ありません。暗黙のプレッシャーだけで十分なことが分かります。
さて、囚人のジレンマについて勉強していると、どうしても「罰則」や「制裁」と言った言葉がたくさん出てきます。「北風よりも太陽たれ」がモットーの人は、いささかうんざりしているかもしれませんね。ひとまず囚人のジレンマは卒業し、別の話をすることにしましょう。次は基本4ゲームの3つめ、「マッチング・ペニー」についてお話しします。
>> マッチング・ペニー(1)グリコ・パイナツプル・チヨコレート