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ゲーム理論の目的

前回は、ゲーム理論が「ゲーム的状況」と呼ぶものがいかに広いかを説明するため、2つの例をあげました。今回のテーマは、そうした様々なゲーム的状況を分析する、ゲーム理論という学問の目的はいったい何か、という話です。


ゲーム理論の目的は、ゲームの当事者がどう行動したら得をするかをアドバイスすることではありません。もちろん、どうするのが一番得かはいちおう教えてはくれるのですが、それが目的ではないのです。ゲーム理論の目的は、「ゲーム的状況でどんな結果が起こるかを、シミュレーションで予測すること」です。つまり、ゲームの当事者たちを一段上から眺めるのです。


たとえば前回の、合宿所のすき焼きパーティーの例だと、ゲーム理論の予測は、
「部員たちは皆、肉も野菜もまだ十分煮えていないうちに、あせって鍋から取って食べる」
というものでしょう。うまい工夫をしない限り、全員が生煮えの肉や野菜を我慢して食べるという結果になると、ゲーム理論は予測します。もう一つの、向こうから自転車で並走する中学生がやってくる例はどうでしょうか。ゲーム理論の予測は
「あなたが道の脇に寄る。中学生たちは並走を続けて通り過ぎる」
です。(ゲーム理論がどう予想をするのかは、追い追い説明することにします。)

最初の目標は名前を覚えること

ゲーム理論では、よく起こる典型的なゲーム的状況にはあらかじめ名前をつけています。詰将棋(つめしょうぎ)の世界で、将棋盤の局面にいろいろな名称が付いているのと似ています。特定の状況にあらかじめ名前をつけておけば、いざその状況が起こったときに、「あ、この状況は〇〇だ」と気付きやすくなり、そのあと何が起こるか速やかに予想できますね。



ゲーム理論も同じです。すき焼きの例は「ベルトランゲーム」という状況ですし、自転車でどちらがよけるかの例は「チキンゲーム」という状況です。ゲーム理論では社会で起こる典型的な駆け引きの状況に、いろいろ名前がついています。そのおかげで、ゲーム理論を勉強している人は、「場面はまったく違うけど、状況はあれと似ている!」という具合に、素早く状況把握することができます。


そこで、私たちの最初の目標も、基本的なゲーム的状況の名前を覚えることとしましょう。

>> ゲーム理論入門(3)基本4ゲーム