ゲーム理論がゲームと呼ぶもの
初めて「ゲーム理論」という言葉を聞いたとき、スーパーマリオやドラゴンクエストのようなゲームのことを想像したのを覚えています。
実際にはゲーム理論のゲームとは「遊び」のことではなく、「駆け引き」のことです。駆け引きなので、目的や利害が必ずしも一致しない2者以上の主体が登場しないといけません。ですから、1人で遊ぶスーパーマリオはゲーム理論的にはゲームではありません。一方、囲碁やトランプ、テニスやサッカーなど、2者以上が勝負する遊びはゲーム理論的にもゲームです。
ゲーム理論がゲームと呼ぶものは、そういった勝負ごとに限りません。日常やビジネス、政治で生じる競争、妥協、協調など、ありとあらゆる駆け引きのことを、ゲーム理論は「ゲーム的状況」、あるいは単に「ゲーム」と呼びます。企業の競争も、選挙も、犯罪者と警察のイタチごっこも、公園で子供たちがブランコを仲良く使うかどうかも、ゲーム理論にとって駆け引きは全て「ゲーム」です。その中には、言われなかったら気づかないような、日常の何げない駆け引きも含みます。
例えば、運動部の合宿の最後の夜、合宿所の夕食で「すき焼き」が出たとしましょう。ひとテーブルにつき4人の腹ぺこアスリートが鍋を囲んで座っている状況を想像してください。肉も野菜も量が限られているので、のんびり煮えるのを待っていたら他の部員仲間に先に食べられてしまうかもしれません。この状況はゲーム理論的にはゲームです。
もう1つ例をあげます。やっと2人がすれ違えるような狭い歩道を、あなたは自転車でのんびり進んでいます。すると向こうから、やはり自転車で部活帰りの中学生2人が、横並びでおしゃべりしながらやってきました。これもゲーム理論がゲームと呼ぶ状況です。
歩道は自転車2台がすれ違える幅しかないので、あなたがブレーキをかけて歩道の脇に寄るか、あるいは中学生たちがおしゃべりを中断して並走をやめるかしない限り、正面衝突してしまいます。正面衝突だけはあなたも中学生たちも絶対避けたいのですが、あなたとしてもその中学生たちとしても、できれば自分ではなく相手によけてもらいたいところです。わずか数秒の間でほとんど無意識に起こる微妙な駆け引き?ですが、ゲーム理論では大げさに「ゲーム」と言います。
ゲーム理論が何をもってゲームと呼ぶかの話はこれくらいにして、次はゲーム理論の目的について話したいと思います。
>> ゲーム理論入門(2)ゲーム理論の目的