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産出

その3.GDPの限界

「生産活動の指標」として役立てるため、国際基準にのっとって、様々な機関の協力のもとに集計されるGDPですが、もちろんいくつかの弱点があります。いきなり弱点を聞かされると勉強する気がそがれてしまうかもしれませんが、本来の目的を見失わないためにも、限界を知っておくことは大事です。


GDPの弱点の1つめは、社会の変化のせいで、結果的にGDPの一貫性がそこなわれる可能性です。自炊するなら「朝食の用意」はGDPに入りませんが、外食で済ませるというならGDPに貢献します。「家の掃除」も、自分でやるならGDPに入りませんが、家政婦さんにやってもらうならGDPに入ります。放課後、子供たちが自分たちだけで遊んでいる社会では「学童保育」はGDPに入りませんが、学童保育施設が利用される現代ではGDPに入ります。


つまり、食料や被服、家事、育児、介護など、多くの家庭で自給自足されていたものが、社会の変化にしたがって徐々に外注されるようになると、今までGDPに入っていなかったものが、突如GDPに含まれるようになるのです。GDPが急増するため、生産活動が急成長したように見えてしまいますが、これは生産増加の過剰評価と言えます。便利さは増したとはいえ、今までだって生産されていたものだからです。この過剰評価の補正にはさらなる理論やデータが必要で、容易なことではありません。


GDPの弱点の2つめは、国民1人あたりのGDPを「経済的な豊かさの指標」として使おうと思ったときに生じます。「たくさんの物が生産されれば経済的に豊かになる」という発想じたいは自然なものです。美味しいものを食べたり、旅行に行ったり、病気の治療を受けられたりすることは、人の生活を豊かにするでしょう。


しかし、GDPは経済的な豊かさのバロメータとしては完璧ではありません。『経済政策で人は死ぬか』(David Stuckler & Sanjay Basu) に引用されたロバート・ケネディ(米ケネディ大統領の弟)の言い方を真似するなら、タバコや自動車の生産が増えてもGDPに貢献しますが、そのせいで肺がんの手術や事故被害者を運ぶ救急車が増えてもGDPに貢献します。治安が悪化して特殊な鍵やセキュリティ、警察、刑務所、武器などの需要が増えれば、これもGDPに貢献しますし、訴訟社会で弁護士の利用が増えれば、やはりGDPが増えます。GDPは単純に全てを足し合わせたものなのです。


しかしながら、学校の成績だけで生徒の資質が測れないから「成績は見る必要がない」とはならないように、たとえGDPに上記のような弱点があったとしても、GDPはまだまだ重要な役割を果たし続けるでしょう。そこで次回からは、GDPが計算されたあと、それをどのように解釈するかを説明します。


今日のポイント:
GDPは完璧な指標ではないが、現時点では重要な経済指標である。


>> マクロ経済学の基本用語シリーズ(8)景気循環



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